目次
- はじめに――「世界同時リスク」の潮目
- 第1章 イスラエル・イラン戦争の急拡大
- 第2章 原油 40 %急騰のエネルギーショック
- 第3章 100年ぶりの高関税と“輸入インフレ”
- 第4章 FRB の利下げ先送りと“利上げなき金融引き締め”
- 第5章 10年債利回り 4.5 %接近のシグナル
- 第6章 債務上限 × 財政危機――ダブルレバレッジ崩壊リスク
- 第7章 マーケット連鎖:株・債券・為替・コモディティ
- 第8章 日本への衝撃波――資源依存国家が直面する二重苦
- 第9章 投資家のサバイバル戦略
- おわりに――リスクは“恐怖”ではなく“値段”で管理する
はじめに――「世界同時リスク」の潮目
2025年夏、株式市場は〈地政学×インフレ×財政〉という“三層ハリケーン”に飲み込まれつつある。イスラエルとイランの報復合戦、トランプ政権による平均17 %(実効ベース)まで跳ね上がった関税率、そしてFRBの利下げ先送り――これらが同時進行で物価と金利を押し上げ、「景気減速なのにインフレが戻る」スタグフレーションの色を濃くしている。
第1章 イスラエル・イラン戦争の急拡大
1-1 転機となった 6 月 13–14 日
6 月13日、イスラエル空軍はイラン中部イスファハンの核関連施設や南パルス(サウスパルス)巨大ガス田を同時攻撃。翌14日深夜、イラン革命防衛隊は弾道ミサイルとドローン数百機を発射し、イスラエル北部ハイファ港湾やエネルギー貯蔵施設を直撃した。米国・イラン核協議は即日中止、戦闘は事実上の全面戦争モードに突入した。
1-2 ホルムズ海峡封鎖のシナリオ
イラン議会のコサリ元将軍は「必要なら海峡を閉鎖する」と警告。世界原油供給の約20 %が通過するチョークポイントが封鎖されれば、1970年代並みのエネルギーショックが再来する。米英仏の艦隊展開は抑止力となるが、事故一つでリスクプレミアムは急拡大する。
第2章 原油 40 %急騰のエネルギーショック
4 月上旬に WTI は 59 ドルをつけたが、戦闘勃発の報が流れた 6 月13日には一時 77.6 ドルまで急伸(終値 72.98 ドル)。わずか 2 カ月で約 30–40 %跳ね上がった計算だ。ブレントも 74 ドル台へ 7 %急反騰し、両指標とも 2023 年ウクライナ危機直後以来の「1日 7%超高」を記録した
価格転嫁→CPI への波及
海上輸送費+原油輸入コストが 20 %押し上がると、日本のCPIを約0.4 pt、米CPIを約0.3 pt上振れさせるとの試算が野村総研にある(燃料・光熱費のウエイトより試算)。物流逼迫が長期化すれば、パナマ運河の船腹不足とあいまってさらに+0.2 ptの追加インフレが見込まれる。
第3章 100年ぶりの高関税と“輸入インフレ”
2025年5月時点で米国の実効平均関税率は17.8 %と 1934 年以来の高さ。さらに大統領令で鉄鋼・アルミ・EV に上乗せ関税が検討されており、貿易加重平均は 20 %を超える可能性がある。輸入品コストは即座に CPI を+0.4 pt 押し上げ、FRB が狙う 2 %目標を再び遠ざける。
第4章 FRB の利下げ先送りと“利上げなき金融引き締め”
6 月 FOMC では政策金利(5.25–5.50 %)据え置きが確実視され、年内利下げは「早くても 9 月」「むしろ 2026 年」というコンセンサスへ後ずれした。背景にあるのは (1) 原油高によるインフレ再燃懸念、(2) 高関税による物価上振れリスクだ。FRB 自身が「供給ショック要因が解消しない限り緩和できない」と認める状況下、金融条件は名目利回り上昇と実質金利上昇のダブルタイトニングへ。
第5章 10年債利回り 4.5 %接近のシグナル
6 月10日の米10年債利回りは 4.47 %と年初来高値圏。インフレ期待(BEI)が 2.6 %、タームプレミアムが 1.4 pt まで膨らみ、実質金利も 1 %台後半。財政赤字拡大と QT(量的引き締め)の続行が“米国債の需給バランス”を悪化させている。歴史的に実質 10 年債が 2 %台に乗ると S&P500 の PER は 17 倍前後まで修正されやすく、ハイテク高PER銘柄は注意が必要だ。
第6章 債務上限 × 財政危機――ダブルレバレッジ崩壊リスク
連邦債務残高は 36.1 兆ドルで GDP を上回り、1 月に再設定された債務上限に到達した。ムーディーズは 5 月に米国債を AAA→Aa1 へ格下げ。6 月には財務長官が「7 月中旬までにデフォルトの可能性」と議会に警告した。利払コスト増と利上げ停止見送りが重なれば、2026 年までに金利支払が国防費を超える計算だ。
第7章 マーケット連鎖:株・債券・為替・コモディティ
資産クラス | 想定シナリオ | 価格変動 | 投資アイデア |
---|---|---|---|
エネルギー株 | 原油 $80→$100 | 15–25 %高 | XOM, CVX など高配当大型 |
防衛株 | 中東緊張長期化 | 10–20 %高 | LMT, RTX 他 |
米ハイイールド債 | 10年債4.5→5 % | 3–5 %下落 | 期間短めの浮動金利債へ |
金(Gold) | 実質金利低下局面 | $2,500 試し | GLD, 純金積立 |
円 | 有事の円買い+日米金利差 | 140→135 円台 | FXヘッジで円高メリット活用 |
(日次リターンは過去類似ケース平均から逆算、あくまで目安です。)
第8章 日本への衝撃波――資源依存国家が直面する二重苦
- 輸入インフレ:原油・LNG コスト 20 %増 → 国内ガソリン +25 円/L、電気料金 +12 %。家計負担は年間 +9 万円試算。
- 金利上昇:長期国債利回りは米金利に連動し 1.4 %台へ。国債利払だけで国税収 10 %超を圧迫。
- 金融機関ストレス:国債下落で含み損拡大。地域銀行の自己資本比率が 7 %台へ低下との試算あり。
エネルギー・円高ショックが同時に来れば「景気悪化+物価上昇」という BOJ にとって最悪の組み合わせ。
第9章 投資家のサバイバル戦略
- 3 層防衛ポートフォリオ
- 第1層:現金 15 %+短期米ドル MMF――有事流動性の確保。
- 第2層:実物・インフレ連動資産 25 %――エネルギー株、GSCI 連動 ETF、金。
- 第3層:キャッシュフロー株 60 %――配当貴族、公益、ヘルスケア、ディフェンス。
- “関税インフレ”ヘッジ
- 米国内生産比率が高く関税の影響を受けにくい企業(例:ウェイストマネジメントなど内需型)。
- デュレーション調整
- 債券は平均残存を 3~4 年に短縮し、金利上昇リスクを最小化。
- ゴールド+円ロングの“不安定期トレード”
- 有事の金買いと円買いは同時に走りやすい。米 CPI ショック時に逆張りで利益確定を狙う。
おわりに――リスクは“恐怖”ではなく“値段”で管理する
2025 年後半は「地政学ショック→インフレ→金融政策長期タイト→財政リスク」という螺旋構造が市場を包む。だが歴史的に見れば、恐怖が最大化したときに“安全資産”の値段は割高になる一方で、質の高い企業にはバーゲンが訪れる。本書が提供する 三層防衛ポートフォリオ と 有事シナリオ分析 を活用し、「恐怖を値段に換算する」視点で冷静に行動してほしい。これが、乱気流の 2025–26 年相場を生き抜く個人投資家への最良の武器となるだろう。